潮州語講座
【序章】
潮州ポップスは民謡風や演歌風のものが殆どでしたが、近年、若い方々を惹きつける作品も出てくる様になり、中でも阿牛と阿輝のユニットが有名。
それ以前にメンバーの一人(客家系)を除き、潮州系の男性全4人からなる「山脚下男孩」というグループがありました。
彼等は'98/9月にアルバムを出しましたが、このグループがその後どうなったかは不明で、カラオケソフトが存在するかどうか不詳。
この時のアルバムでは作品半分を阿輝(張文輝)が提供していました。
このグループの後に阿牛とその阿輝が「我們都是一家人」という潮州語の入ったアルバムを2000年6月に出しています。
潮州語について聞かれてもテキストすら手元にありませんが、CDから分かることが多少有るので、これまで分かった事を何回かに分けて報告します。


【第一回】
今回取り上げる曲は阿牛と阿輝のユニット「我們都是一家人」から「OH!打甫Oh Boy!」。
カラオケソフトがあるかどうかは不明ですが、ご心配なく。
踏台さんのボトルネックで歌う事が可能
であり、皆さんも機会があれば一度、実際に試していただければ楽しめること請負います。
甫は歌詞カードでは土偏がありますが、大抵、方言字は音の為に作られており、音用の文字については、意味を探る為に調べる単語の文字と違ってあまり拘ることがないのと、繁雑になるので、その都度、個々に注釈をつけますが、皆さんも手元の歌詞カードでチェックするようお薦めします。

我是一隻鳥仔給汝関著個鳥籠
ワ シ チッ チャ チャゥ キャ ホ ル クァィ ティ カイ チョ ラン
わたしはあんたの籠の鳥。

仔の音はKIAとなっていますから台湾語の国構えの子でしょう。
仔は普通語でZAI、台湾語では単語の後ろにつける「〜ぁ」で使われています。(阿伯仔アペァ等)
潮州語ではKIAは大抵これですから歌詞に仔が出てきたらKIAと覚えておけばルビは不要です。

「給」と「著」台湾語でもよく「ホ」と「ティオ/テ/ティ」に読まれていますから問題ないですが、次の「個」は「的」と共にカイとしてよく出てきます。
わたしは「介」を使っています。
客家語や広東語などでは「ゲ」に相当する、台湾歌によく出てくる「エ」のようなもの。
鳥仔と鳥篭で鳥の音が違うのは白話音(前)と文言音の違いです。

飛来飛去飛没出去実在真可憐
ポェ ライ ポェ ク ポェ ボェ ツォ ク スッ ツァイ チン コ リャン
自由に空を飛べないから本当に可哀そう

汝著外口偸偸笑到我心乱乱乱
ル ティ ゴァ カウ タゥ タゥ チョ カウ ワ− シン ロァン ロァン ロァン
あんたが楽しそうに笑うのを見ると心が落ち着かない

帯堆鶏婆的阿審阿嫂看我叫投降
ツァ トゥン ケ ボ エ ア シン ア ソ トィ ワ- キョ ト- ハン
家のおばさん達は俺を負け犬という

「看」は当て字で広東語でも使う[目弟tai]ですが、このまま看をtoiと覚えましょう。
ここの「的」ははっきりではないが「え」に聞こえます。

以上、最初のワンコーラス。
汝ルー、去クー、個カイ、看トィ、など、一部を除いて、ここまでではカナルビを見る限りでは台湾語との区別が殆ど着きません。
我WAなど台湾の若者もこのように言います。
実際に音を聞いてみると微妙に語尾の音が違ったりしますが潮州老歌や演歌に比べると若い人の曲の発音は台湾の若者同様変わってきているように思います。
ここでは演唱者の発音に近い音にしておきました。
それから、単母音は大抵長音で発音される傾向が有りますから、カナ文字一つは伸ばし気味に発音して、逆にカナ文字4つ(例えば、ティァンなど)でも素早く発音するよう心がけてください。
語尾が聞き取れないぐらい小さい音で歌っているところは繁雑さを避ける為にカナ文字を省いている個所もあります。


【第2回】
我有心事積著心内唔知[キ戈]知當
ワ ウ シン ス ケッ ティ シン ライ m ツァイ ツェ ティ ティアン
募る思いをどうしたら良いのか分からない。

「積著」は潮州歌謡にはよく出てくるキーワードらしく、よく分かりませんが台湾語の「計較」並に
使用範囲が広い単語と思われます。
[キ戈]の字は中文では普通に使われていますが日文漢字がないから困ります。
「知當」の知は「唔知」と音が違いますが、歌詞カードに訳が出ている「知當→誰」から判断すれば
文言音ではないかと推測されます。

積久無好無談出来早晩変瘋人
ケッ ク ボ ホ ボ タ- ツッ ライ ツァ マン ピァン シャウ ナン
何とかしないとそのうち気が変になってしまう。

「無」は歌詞カードでは「有の月のない字」〔〕で広東語のMouを使っていますが、大抵、音は台湾語の「Bo」とほぼ同じです。
このアルバムの他の曲にもこの字が使われていますが、殆ど「Bo」です。
おなじように「談」は〔口旦〕でTa。
談はtamですが白話音と判断してこの字を当てました。
瘋人の瘋は「Siau気違いの」で王さんは〔?肖〕を揚げていますが、台語歌の歌詞では病垂れに孝などいろいろな表記で出てきます。
以前、台湾の人から聞いた話では、シャウの音自体に好いイメージが無いのでこの音は注意しなければならないそうです。「クレージー」の意味で「抓狂リャコン」を使用するのはその為かも知れません。

汝有時熱汝有時冷我真正蛮張
ル ウ シ ゾァ ル ウ シ ラン ワ チン チャ マン ツァン
優しくしたり冷たくしたり、もう我慢できない。

「蛮張」も歌詞カードに訳が出ています。

無怪打甫怨来怨去査某頁悽惨
ボ クァィ タ ボ ワン ライ ワン ク ツァ ボ ジッ チィ ツァン
女に苦しむ男は怨むようになるのはあたりまえ

この「頁」もよく見ますが、多分「真」の意味で音が違うから当て字を使ったと推測されます。

以上、2コーラス終了。

今回はリフレインの部分も取り上げます。

OH打甫 真可憐 [小京]査某的打甫[口各]個可憐ですが、[ ]の部分の字は音と意味から勝手に判断して「抓」と「擱」にします。「捉まる」と「更にまた」の意味で台湾語にもよく出てきます。
又、ここでの「個」は(カイ)ではなく、(カ)と言っていますから「較」にします。「又更に」ならこの表記の方が音、意味にぴったり。
それで、以下になります。

OH打甫 真可憐 抓査某的打甫擱較可憐
オー タ ボ、チン コ リャン リャ ツァ ボ エ タ ボ コ カ コ リャン
あぁ 男は可哀そう女に捉まった男はもっともっと可哀そう。

汝可憐 我可憐 俺加料PUN可憐
ルー コ リャン、ワ- コ リャン ヌン カ リョウ ぷん コ リャン
あんたもわたしも可哀そう、私達みんな可哀そう。

「俺」は歌詞カードでは[口自]で「自分も相手も含めた私達」の意味ですが、他の潮州曲で「俺」を使っているから、それを採用。
「加料」は歌詞カードに訳が有ります。
又「PUN」もよく見られる単語で、あるいは強調かも、今後調査します。


【第3回】
我疾心時哭PUN目汁唔敢四散流
ワ ケッ シン シ カウ ぷん マッ ツァ m カ シ ソァ ラウ
心が痛む、涙がそこら中に流れ水浸しに成らないか心配

次の行で[小京]が再度出てきますが、この字は「掠」の誤植ではないかと疑っています。
この字なら日本語でも「りゃく」でミンナン語音に近い。

抓汝看着看我没起硬硬呑落肚
二ャ ル トィ ティオ トィ ワ- ボィ キ ゲ ゲ トゥン ロッ ト
あんたに見つめられると緊張して何も出来なくなる

半冥做夢起来哭到伏著床褥頭
ポァ メ ツォ モ キ ライ カウ ト− キッ ティ ムン ツン タウ
夜中に夢から醒めベッドに伏したまま泣く

「著」は歌詞カードでは「在」ですが、tio着、tit著、to在に字を統一しています。

為着査某目汁流流愈想愈衰小
ウイ ティオ ツァ ボ マッ ツァ ラウ ラウ ズゥ ショ ズゥ スイ シャウ
彼女を想い泣いて益々落ち込んでいく


【最終回】
張文輝はカントリーソングが好きだそうで、'5,60年代のアメリカ音楽(所謂50'sのような物ではなく、各年齢層全体に渡って受け入れられていた)がベースになっているのを感じます。
しかし、単なるコピーではなく、阿輝節になっているのは潮州語の歌詞の所為だけではなく、彼の才能のなせる業か?

我為査某頭殻愚愚掉第勿[目采]人
ワ- ウイ ツァ ボ タウ カッ コン コン ティァウ ティ マイ ツァイ ナン
惚れた女に呆けた私は誰も相手にしてくれない。

「愚愚」は台語歌にzhuang又はgongの誤用でよく出てくる[敢/心]hanだが、いずれにしても当
て字なので、割り切って「愚」にしてある。「掉第」は訳が歌詞カードにあります。

睡PUN没[多句]吃飯没飽沖涼沖没湿
ウ ぷん ボィ カウ チャ プン ボィ パ ツァン エ ツァン ボィ タン
眠れず食えず風呂にも入れない。

睡はHUN[目困]、広東語のfaan[目訓]ではないかと思うが(どちらも日本語音読みではクン)。
マレー盤潮州歌謡のVCDにはHの脱落音の文字が多数見かけられ、Hを落した発音が習慣的に行われていると予想されます。
マレー盤の潮州歌謡VCDにはローマ字でルビを付けているものがあり、そこでよく出てくる「有」の文字には「hu」と振ってあります。
台湾語でも「紅」はhの音が消えていてこれは興味ある現象です。
「涼」の「エ」の音になっているが、どういう経緯なのかは不詳。
「湿」は台湾語でも「沃湿湿」アッタンタンなど、「涙で濡れてびしょびしょ」や、「雨でずぶぬれ」、などの比喩で多用されているタン」。

分没出[感−心]分没出甜分没出臭香
プン ボィ ツ キィァム プン ボィ ツ ティァム プン ボィ ツッ ツァウ パン
味も匂いも感じない。

潮州話の特徴は表現を三つ並べると言う表現がこのように何度も出てくるが、他の方言エリアなどでは大抵二つが普通で、ちょっとくどい感じがする。

人做打甫俺做打甫実在笑死人
ナン ツォ タ ボ ヌン ツォ タ ボ チッ ツァイ チョ シ ナン
男になること実際大変だよ。

この後、リフレインの合唱で終わります。

「睇」を後で打てる事が判明したが、潮州歌謡でも「看」が使用されており、一応このままにしておきます。
皆さんも他の表示文字等含め、自分が分かりやすいように色々工夫して書き変えてみられることをお薦めします。

師匠 2003/04/26

 

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