台湾語の背景

●台湾語ってなに
日本人が台湾語をイメージするとき、たいてい(※1)ミン南語から派生した福老語(台湾で客家系と区別するとき、福建系をこの様に称す)を思い浮かべるのが一般的でしょう。
台湾語を台湾で使用されている言語と広義に解釈すれば、客家語や、北京官話(マンダリンをベースにした国語をはじめ、国民党と共に大陸各地から入った新流入漢族の方言などがあります。
それどころか、もっと古くから台湾に住み着いていた山地同胞と呼ばれる10部に分類されるネイティブの各部の言葉もあるわけです。
しかしここでは中華POPSの愛好家がより良く歌詞の内容を理解するためのツールとして考え、話をすすめるのが主旨ですから、ごく簡単に決めておきます。

狭義台湾語を台語(タイギ又はタイグとも)とし、福老語として台湾に定着したミン南語の分派であるアモイや泉州、(※2)〔シ章〕州等の言葉を源流とする言語。従ってここでは台語(タイギ)と統一しておきます。
タイギを台湾語と称しても構いませんが、少なくとも台語歌(タイギコア)に興味のある方々の共通の了解事項と言う意味です。

●台湾語の昔と今
台湾語(以下台語)は漢語のミン語の下位方言であるミン南語に属するわけですが、大陸の福建沿海部(一部広東省の潮州のミン南人等あり)の各地から人々の移入と共に台湾に入った言葉で、大陸では土地の言葉が地域でよく保存されているのに比べ、各地の言葉の特徴が入り混じって、不〔シ章〕不泉といわれる独自のものになっています。
台語は過去約50年の日本の統治下にあった為、日本語の単語がかなり残り、日本語は山地同胞間の他部族との共通語として今も使用されているぐらいですから、大陸のミン南語とは語彙の差異は大きい。
近年国語教育の成果がかえって台語をおとしめるなど、福老人の使用者が減る傾向にありましたが、文部省にあたる教育部の主導で台語の学課を設けました。

台語にはスタンダードがないため、台湾各地では、その土地の発音で教えています。
台語と国語は互いに影響を与え合い、それぞれが大陸の言葉とは、益々離れてきています。
台湾国語と大陸普通語はどちらも北京官話(マンダリン)がベースの言語ですが、選択される語彙やフレーズに差異があり(勿論普通語でも大陸内部の地域差はかなりのものですが)台湾人は普通語を「四字熟語だらけで固過ぎる」といい、大陸のインテリは台湾国語を「くだけ過ぎる」と感じるようです。(長城倶楽部の会長はこの二つを使い分けます)

ミン語は元々中原で使用されていた由緒正しい言葉ですから、マンチュウリアンのリンガよりはるかに漢語の正統性を有しています。
しかし267年の満州人の漢族支配は、北方漢族にかなりの影響を残したわけです。漢語は満州人にとっては外国語である為、しっかり学ぶ必要があり、発音と表記の研究と整理を熱心にやりました。

孫文の中華民国成立時、共通語を決めるときにどの方言を選択するか大変揉めましたが、上記の理由でマンダリンに決まりました。
ところが、あまりにも、表記と発音の整合性にこだわった余り、最高の意味で使う「頂上」のテンがデンに整理され、しかたなく、挺の字を充てなくてはならなくなりました。そのくせ、銀行の行は広東語のハンの音を入れています。広東語の発音が定着した単語には会計の会などもそうです。
そして又別の地域からの単語ではこんな現象もあります。
当時、外来語を一番多く生み出していた地域は上海周辺であった為、上海読みの漢字でできた外来語が今でもたくさんあります。その上海読みの単語を、マンダリン式に読むため、とても変な音になります。
長々と話を続けてきましたが、台語の今を理解するのには、格好の例だからです。

台語にはマンダリンにない単音のエの音や日本語のキやケの音が有り、有声音が保存されている為、日本人には発音の苦労が少ない。
逆に台湾人は国語教育の影響で台湾人なら簡単にできるはずの音が難しくなってきています。
カとガの区別を台湾人は国語の送気音と無送気音の区別で考え、難しいと思っている人が結構います。そういう人には、GOA(我)とKOA(歌)を説明すると納得します。台語の今の問題は国語の影響を自覚していないところにあります。

●台語の発音について
台語各地域の発音の特徴については色々研究されていますが、上記の理由から、現在では調査された時から変化が進み、一概に言えなくなってきています。
例えば、細(SOE)を(SE)と発音する〔シ章〕州系ならセジと発音すべきところセリの発音で話す人がかなりいて、反対にソエリと発音すべきところ、ソエジと言う人が多いのです。
だから、ここでは諸説をとりあげません。ただ、
オエの複母音とエの単母音が並立している。
ジの音をリと発音する人がいる。とだけ説明しておきます。

漢字の読みの問題が二つあります。一つは文言音と白話音の存在で、これは大陸の方言でも見受けられますが、台湾語ではより頻繁に現れます。(例えば山の読みにソアとサンがあるように) 

もう一つは訓読み(当て字)の問題です。
日本語では、山をサンと音読みし、また大和言葉でやまと訓読みもします。日本語の訓読みは全て当て字ですが、国語審議会が認めたものを訓読みとし、勝手な漢字の読みを当て字と区別していますが、元々同じものです。
台湾の先住民のことばが語源のケランに鶏籠の字を当てキールンとしたものを、基隆の字に変え、それを国語でジーロンと読む。なんともご苦労としかいい様がありません。
だから、タイギコアのカラオケは一筋縄では行きません。

(師匠)

(※1)ミン南語--「ミン」は、「もんがまえに虫」と書きます。「門/虫」。本文中では、すべて「ミン南語」と書きました。
(※2)〔シ章〕--この文字は、本来、「さんずいに章」と書きます。

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